【開催レポート】現場に蓄積される店舗データは、どこまで経営を強くできるのか─ドトールコーヒーが実践する、店舗起点データの活かし方─
少子高齢化と人手不足、そして人件費の高騰。外食・小売をはじめとする多店舗事業では、こうした構造的な変化を前に、従来の店舗運営モデルそのものが見直しを迫られています。いま求められているのは、属人的な経験や勘ではなく、現場で日々蓄積されるデータを起点に、意思決定の精度とスピードを高めていく経営です。
こうした背景のもと、弊社クロスビットは「現場に蓄積される店舗データは、どこまで経営を強くできるのか ─株式会社ドトールコーヒーが実践する、店舗起点データの活かし方─」を2026年5月19日に開催しました。デリバリー注文管理の領域においてオペレーション改革を牽引する株式会社tacomsにご協力いただき、外食を中心とした多店舗運営企業の経営層や、店舗運営・営業部門の責任者の皆様にお集まりいただきました。
本レポートでは、約1,200店舗を展開するドトールコーヒーの実践事例を中心に、「シフト・人員配置」と「店舗オペレーション」という2つの視点から、多店舗運営におけるデータ活用のあり方をダイジェストでお届けします。当日のドトールコーヒー 長谷川氏の登壇内容は、アーカイブ動画でフルでご視聴いただけます。
登壇者プロフィール
長谷川 知弘 氏(株式会社ドトールコーヒー 取締役 店舗運営本部 本部長)
電子部品メーカーにて研究開発に携わった後、企業再生を専門とするファンド企業を経て、2012年にドトールコーヒーへ入社。経営管理部門にてグループ会社の再建を主導し、経営基盤の立て直しと収益構造の改善を実行。2019年より店舗運営部門を統括し、約1,200店舗の運営を管掌。現在は、店舗事業全体のビジネスモデル構築、オペレーション改革、ブランド戦略の再定義を通じ、持続的な成長に向けた改革を推進している。
小久保 孝咲(株式会社クロスビット 代表取締役)
早稲田大学政治経済学部在学中に転職エージェントで法人営業マネージャーを経験。自営業の家庭に育ち、「はたらくこと」と生活の関係性に強い問題意識を持つ。2016年にクロスビットを創業し、クラウドシフト管理「らくしふ」を提供。シフトデータから見えてくる「労働力の需要と供給」を解析し、就業・採用・給与までを一気通貫で最適化する「Workforce Enablement」を掲げ、労働力不足という社会課題に挑み続けている。
宮本 晴太 氏(株式会社tacoms 代表取締役CEO)
2018年東京大学入学後、複数のスタートアップを経て、2019年にtacomsを設立。創業時は大学生向けのデリバリーサービスを展開するも、飲食店の現場のオペレーション課題に着目し、事業転換。2020年7月にデリバリー注文一元管理サービス「Camel」をリリース。2025年、競合であった株式会社モバイルオーダーラボと経営統合を実現。現在は「飲食業界向けAll-in-One AI Platform」の構築を目指し、テクノロジーによる業界の競争力底上げに尽力している。
Part 1|ドトールコーヒー 長谷川氏 講演
最初のセッションには、ドトールコーヒーの長谷川 知弘氏が登壇。関西エリアで店長として現場に立った経験を持ち「現場で働く自分と、本部から降りてくる施策との間にギャップを感じてきた」と語る同氏の視点から、約1,200店舗を展開する同社の店舗データ活用の全容が語られました。
長谷川氏はまず、多店舗型ビジネスが置かれた状況に触れます。人手不足や人件費高騰という構造的な変化のなかで、従来の店舗運営モデルは限界を迎えている。だからこそ「現場をどう見るか」という視点そのものを経営層がアップデートできるかどうかが、企業の競争力を左右すると指摘しました。
同氏が強調したのが、ドトールコーヒーショップが大切にする2つの価値観です。低価格や立地の利便性といった「機能的価値」と、接客などの「情緒的価値」。一般にこの2つは、土台と付加価値という上下関係で語られますが、同社はあえて並列の関係として捉えていると言います。
この価値観を従業員に向けて言語化したものが、ドトールコーヒーショップのブランドスローガン「すべての今日を、支えていく。」。約1年をかけて現場の声に耳を傾けながら策定したものだといいます。店舗データの活用も、現場がその意義を理解して初めて成果につながると語る長谷川氏は、会場に1つの問いを投げかけました。
「店舗データは、誰のためのものなのか。この問いに向き合わずにデータ活用を進めると、必ずどこかに歪みが生まれます」
講演の後半では、この問いへの答えとして取り組んできた3つの実践事例が紹介されました。店舗データを用いたオペレーション分析、有人レジからセミセルフレジへの転換、そしてインナー向け情報発信のデジタル化。いずれも勘や経験ではなく科学的なアプローチで現場の構造を捉え直し、機能的価値と情緒的価値の両方を守りながら改善を積み上げてきた取り組みです。
長谷川氏は、これら3つの事例を貫く考え方を「人的資本経営を、データで実装する試み」と総括し、最後に、こう締めくくりました。
「店舗データは、経営を強くするための前に、経営を誠実にするためのものです。変化の理由を説明でき、その判断を言語化できること。この説明責任を果たすことこそが、これからの経営の強さだと考えています」
3つの実践事例それぞれで、どのようなデータをどう読み解き、現場をどのように変えていったのか。その具体的なプロセスと成果は、ぜひアーカイブ動画でご覧ください。
Part 2|クロスビット 小久保 講演
続いて登壇したのは、クロスビット代表取締役の小久保 孝咲。冒頭で今月発表したSmartHRグループへの参画を報告し、「『働く』をめぐる課題に、より広く向き合える会社になった」と語りました。
クロスビットが提供するクラウドシフト管理「らくしふ」には国内100万人を超えるユーザーがおり、月間で数千万時間規模のシフトデータが日々生成されていると説明したうえで、シフト・人員配置データから見えてくる3つの事例を紹介しました。
小久保が注目するのは、売上データのように分析しやすい指標から一歩離れた、シフトや人員配置といった「現場側のデータ」です。そこから何が見えてくるのか、3つの切り口で事例が紹介されました。
第一に、入社から1ヶ月以内に辞めてしまうスタッフの存在に着目した「早期離職」という観点。2つ目は店舗間の応援(ヘルプ)勤務をどう機能させるか。そして3つ目は、同じ条件でも売上やオペレーションに差が出る日を、勤務データから読み解く「当日、誰がいるか」という視点です。いずれもすぐに着手できる打ち手から評価制度にまで踏み込んだ設計まで、具体的に語られました。
小久保は、人手不足が前提となるこれからのシフト設計についても言及。固定シフトと自由シフトの組み合わせや、AIによるモデルシフトの自動作成・欠員時の補完といった「仕組み」で支えることで、どんな働き方の方でも活躍できる形をつくっていきたいと語りました。
Part 3|tacoms 宮本氏 講演
3つ目のセッションには、株式会社tacomsの宮本 晴太氏が登壇。注文・商品データという切り口から、「マルチチャネル・AI時代に、店舗のデータ基盤をどう築くか」をテーマに講演しました。
宮本氏はまず、この10年で店舗とお客様の接点が大きく変わったと振り返ります。かつては店頭での接客が唯一の接点でしたが、モバイルオーダー、デリバリー、セルフレジと、デジタル化によって接点が急速に多様化しました。さらにこの先、AIの普及によって「人がお店を探し、注文する世界」から「AIがお店を探し、AIが注文する世界」へと変わっていくと、海外プラットフォームの事例を交えて指摘しました。
「お客様と店舗をつなぐ相手が、お客様本人だけでなく、お客様に付いたパーソナルなAIになる時代が来るかもしれません。そのとき、自社の店舗や商品はAIに選んでもらえるのか。そういう問いが、次の5年、10年で現実になってくると感じています」
こうした時代において重要になるのが、注文や商品にまつわるデータを店舗横断で一元管理し、多様化するチャネルへ配信できる「データ基盤」だと宮本氏。tacomsが提供する「Camel」を通じて、そのデータ基盤の構築を支援していると説明しました。
そして同氏が強調したのは、AIによる効率化と「お客様の情緒的価値」の両立です。人手が不足するなかでAIを活用して生産性を上げること自体は比較的容易でも、その先でお客様体験が落ちてしまっては意味がない。むしろAIの強みである「究極のパーソナライズ」を活かし、一人ひとりに合った体験を届けることが、これからのブランド体験につながると語りました。
最後に宮本氏は、「お客様の接点がデジタルチャネルに広がるなかで、お客様体験を落とさずに対応しきること。そして現場の働きやすさと両立できるデータ・オペレーション基盤を整えること。その両立を支えていきたい」と締めくくりました。
Part 4|ラウンドテーブル&ネットワーキング
3名の講演に続いて、会場を移してのラウンドテーブルが行われました。「店舗データの活用」を共通テーマに、参加者同士が自社の課題や取り組みを率直に持ち寄り、意見を交わす時間です。休憩時間にはドトールコーヒーが用意したコーヒーがふるまわれ、和やかな雰囲気のなかでセッションが進みました。
その後のネットワーキングでは、軽食と飲み物を片手に、登壇者も交えた交流の時間が設けられました。同じ業態どうしで課題感を共有し合う場面もあれば、異なる業種の参加者の会話が思わぬ気づきにつながる場面も。データ活用という共通の関心を入り口に、業種や職種の垣根を越えた対話が自然と生まれていました。
総括|当日の講演はアーカイブ動画でご覧いただけます
本レポートでは、3つのセッションの要点をダイジェストでお届けしました。アーカイブ動画では、長谷川氏が語る3つの実践事例の詳細など、レポートだけではお伝えしきれない具体例まで含めてご覧いただけます。
人手不足の時代に、店舗データを経営の意思決定にどうつなげていくか。そのヒントを探したい皆様は、ぜひアーカイブ動画をご視聴ください。
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